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『プリズム』

『プリズム』20**大島ビルの、影-6


そうっと範裕さんを見る。
「苑田さん・・・?」
「うん。感触は・・良かった。次は」
「苑田くんが行けばいい。私は、ごめんだ」
「市島さん」
「それは、どういう・・・」

苑田さんも俺も、意味を測りかねて聞き返す。それへ、険のある市島さんが、突き刺すような言葉を投げ返す。
「はっきり言わないと駄目なのか? 
君のように色気で仕事を取る人間の横には並びたくない、と言ったんだ!」

苑田さんが一瞬、凍りついたように動きを止めた。

「苑・・・」
俺が言う前に苑田さんの手が動いた。す、と髪をかきあげる。
前に、尚和から出て来た時もしていた、怒りや悲しみの感情を、抑える仕草。

「・・・分かりました。別行動がいいと言うなら日を改めます。
ですが、俺の扱う物は高額になることもあります。どうアプローチしたらいいですか?」
「君自身ですればいい。簡単だろう? ついでに色仕掛けで経理の岩腰部長にも声をかけたらどうだ?
私では見向きもされないが、君ならあの堅物でもイチコロだろう?」
市島さんの言葉の棘が、さらに苑田さんを傷つける。

「市島さん、言い過ぎです」
これ以上苑田さんを傷つけてほしくない。そう思って口を挟んだが、
「新井くん、僕は知ってる事実を述べたまでだ。君にも話していただろう、そういう営業をする男だと」
「市島さん!」


「・・・それなら」
低い声が流れた。
「十万出してみな。そいつ・・・落として契約取らせてやる」
あまりに絶望的な、だけどその声だけで押し倒したくなるような色気を滴らせて、範裕さんが言い放つ。
「苑田さん・・・・・」

「はっ。 やっぱり君はそんな奴なんだ。
よく分かった。

中島部長に話をして、チームは止めにしてもらう。もう同じ場所に居たくもない。失礼する!」
「市島さんっ、待ってください!」
出ていこうとする市島さんの腕を掴む。
「放してくれ。君だって聞いていたんだろう? 彼はやっぱりそういう人物なんだ。体で仕事を取ってくるんだよ」
「違います。
苑田さんは自分のことで体を使って営業するなんて、少なくとも俺が知ってる限りでは一度も無かった。
それに苑田さんはみんなが知らない所で努力してるんです」
範裕さんを振り返って、
「の・・、苑田さん、来てください」
「新井?」
「新井くん?」
「俺の部屋まで来てください、二人とも」


無言で部屋へ来た俺たち。

「これ、見てください」
リビングで待ってもらった市島さんの前に差し出したのは、範裕さんにもらったデータ。
「これ・・・?」
「・・・それ、まだ持ってたのか?」
怪訝そうな市島さんと目を見開くようにした範裕さんに頷き、

「これは、苑田さんが自分で作って、使っていた取引先のデータです。
市島さん、よく見てください。そのデータ、作るのどれだけ大変か。俺、真似して作ってみてよく分かりました。
なのに苑田さん、惜しげも無く俺にくれたんです、『役に立つから』って。

『体で仕事もらってる』。そう言いましたよね。もしそうならこんなデータ、作る必要も無い。それに、市島さんだって気付いてるんじゃないですか?
苑田さんが以前営業していた取引先は、どこも苑田さんを嬉しそうに、懐かしそうに迎えてくれた。
それって、ちゃんと仕事してたからじゃないですか?」

「・・・・・・」
「市島さん」






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 新井くんの一生懸命な説得、効果が出そう・・・かも。

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Re: No title

鍵コメv-354さま。 ようこそ。


了解しました。 連絡、遅くなって済みません。
よろしくお願いします。


ありがとうございました。

No title

こういう影の努力を新井くん以外の人に知られるのは
苑田君にしてみれば不本意な事だったかもしれないけど
こんな状況ではそれを知ってもらう以外に苑田君という人をわかってもらう手立てはなかったですよね。

致し方ない営業をしていたのは事実としてある。
勿論社内では新井くんしか真実を知らないわけだけど。。

市島さんにしてみれば、知らない事実はさておいて
こんな風に口に出してしまったことで
自分の努力のなさを露呈したことになったのでは?
苑田くんに対する嫉妬と嫌悪、わからなくもないけど
自分に足りない何かは、他人に聞くか、自分で探すしかないんですよねぇ…

新井くん。もう一押しだよ!
苑田くんのために頑張る!と言うより、自然に行動できてる!
無我夢中に近いかも。

Re: No title

うさメリさま。 ようこそ。


> こんな状況ではそれを知ってもらう以外に苑田君という人をわかってもらう手立てはなかったですよね。

そうですね。苑田、自分のためにもなる、と思ってますから楽しんでやってる部分もあるんです。でも新井くんにとっては「すごい!」。
市島さんには、想像もしななかった事。 驚いたでしょうね。


> 自分に足りない何かは、他人に聞くか、自分で探すしかないんですよねぇ…

ええ。市島さんも探してはいたんです。ですが、何をどうすればいいか、分からなかった。データ集めは出来ても、使い道が思いつかなかったんです。
積み木は並べられても、積み上げることを知らない・・感じかな?


> 新井くん。もう一押しだよ!

そう、あと一歩・・したかったんですけど。「どうどう。あんまり市島さんを追い詰めない」 と、手綱を引っ張られました。笑。
頭の良い人は繊細な一面があるの、苑田、知ってます。
あとは、市島さんが柔らかくなるのを待ちましょう。



ありがとうございました。
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